チンタン・ウパディヤイ / Chintan Upadhyay

アーティスト/アートプロジェクトディレクター
1972年インドのラジャスタン州生まれ。ムンバイ在住。2004年、イギリスでアーティストインレジデンスプログラムに参加。彫刻・絵画作品を中心に、インド国内のみならず、全世界で高い評価を受ける。

真っ青にペイントされた木や大きな赤ちゃんの頭が並べられたインスタレーションなど、刺激的なビジュアルが一度見たら忘れられないウパディヤイの作品。彼はアーティストとしての制作活動において、急速に進む都市化や出生差別(女児より男児が優遇される)など、インドという国が抱えるさまざまな矛盾や混乱を痛烈に指摘します。その作品の多くには自然と人工、協調と対立、公と私など相反する事象が色濃く表れ、現在のインド社会の「揺らぎ」を浮き彫りにするかのようです。

彫刻や絵画作品を通して、社会的、政治的なメッセージを発信するウパディヤイのもうひとつの活動がレジデンス施設の運営です。インドのヴァガード地域を中心に、都市と地方をアートによって連携させる試みとして「サンダーブプロジェクト」を行なっています。世界各国からアーティストを受け入れるこのレジデンス施設では「なぜ、いま、ここで、このプロジェクトを行ないたいのか」、その必然性を日々の活動や交流を通して考え、アーティストが自発的にプロジェクトを立ち上げています。
そして、アーティストと地元の村人の協力により成り立つサンダーブプロジェクトのスタイルは、アーティスト、運営スタッフ、村人など関わる人すべてが対等な関係のもと、それぞれがアイデアやプランを自由に発言し、能動的にプロジェクトに携わっています。

他者の意見やアイデアにどれだけ興味や好奇心を持てるのか。その感覚こそが、他者や社会とオープンな関係を築くために必要な最初のステップだとウパディヤイは考えます。サンダーブプロジェクトではそれぞれの立場の垣根を超え、日常生活をともにしながら「人と人」としての関わりを深めていくなかで、住民自身のコミュニティに対する自主性やモチベーションが引き出されていきます。

周囲の人を巻き込みながら、アートと日常を一体化させる。ウパディヤイの活動や施設運営の動機には、「人と関わりたい」「自分を取り巻く環境をもっと知りたい」という純粋な欲求や探究心が根本にあります。その一個人としてのシンプルな思いをアートプロジェクトとして展開させる手法からは、アーティストやアートがいかに社会に対して開いていていけるのか、多くの可能性を感じさせられます。

(汚染が進む川を子どもたちと見学し、その経験を元に一緒に絵を描くプロジェクト)

(2008年我孫子国際野外美術展にて。近隣の住民に植物を「おすそわけ」してもらうプロジェクト)