ウティット・アティマナ / Uthit Atimana

アーティスト/チェン・マイ美術大学副長
1960年に生まれ、チェン・マイ在住。現代美術家リクリット・ティーラワニット主宰「ザ・ランド・プロジェクト」のアドバイザーであり、野外アートプロジェクト「ソーシャル・インスタレーション」のコーディネーターも務める。アートとコミュニティを結ぶプロジェクトを中心に活動。

アートと社会の関係性、社会におけるアーティストの役割をいち早く検証し、1980年代後半〜1990年代初期にタイのチェン・マイで「ソーシャル・インスタレーション」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げたアティマナ。

「ソーシャル・インスタレーション」とは、パフォーマンス、作品の設置、イベントなどを路上や寺院といった日常の空間で行なう試みです。プロジェクトを立ち上げた80年代後半、タイにおけるアートは美術館で鑑賞するものであり、一部の上流階級の人にしか触れる機会のないものでした。そのため、アティマナの試みは当時のタイの人びとに衝撃を残しました。アーティストと地元住民が一緒になり、作品をつくり、歌を歌い、ヨガをする。それが“アート”かどうかは彼にとって重要ではなく、住民が自分の住む街や周囲の環境に関心を持ち、自発的な行動が喚起されること。それこそがアティマナの考えるアートの役割なのです。その思想は、80年代以降アジアに広がったオルタナティブな活動に大きな影響を与えました。

欧米の大都市で行なわれているようなアートフェア、アートフェスティバルの踏襲や真似ではなく、その場所や人にとっての「リアリティ」を追求すること。そして、自分たちの問題を自分たちの国や街で、それぞれのやり方で解決すること。そうしたシステムやインフラ、プロジェクトを論理的に考え、ディレクションするアティマナがこれからのアートと社会の関係のひとつとして提案するのが「半芸生活」です。農のある暮らしを取り入れながらやりたい仕事をする生き方として「半農半X」という考え方がありますが、「半芸生活」とは学生、会社員、主婦といったあらゆる立場の人たちが、日常生活のなかでアートを通して社会に関わり、思いを共有し、意見を交換することです。そうして形成され得るコミュニティの実現に向けて、アートプロジェクト、教育、セミナー、ディスカッションなどの手法を通し、アティマナは世界中の街の可能性を引き出していきます。

(アティマナのノートには、さまざまなことに触れる中で生まれる彼の思考がまるでドローイングのようにぎっしりと書かれている)